第二章 空を使うしかない関係

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 軽く手を上げてこちらに爽やかな笑顔を見せてくれるのは、まさかの綾人本人だ。さっと血の気が引き慌てて駆け寄る。 「待たせてごめん」 「いや、俺が早く着きすぎたんだ」  そのタイミングで店員が私の分の水とおしぼりを持ってきた。悩まずにアイスカフェラテを選び、綾人に尋ねると彼はアイスコーヒーを注文する。  ホッと一息をついて私は本題をさっさと切り出す。 「あの、この前はありがとう。綺麗なハンカチをごめんね。一応洗ったんだけど、新しいものもよかったら使って」    一気に捲し立て、用意していた手提げ袋を差し出した。綾人は苦笑しながら受け取る。 「なんだか、かえって気を遣わせたな」 「ううん。本当に助かったから」  これは本心だ。あのまま鼻血で服や靴、床をもっと汚していたかもしれないし、凌空の機嫌も悪くなっていたかもしれない。 「そういう真面目で几帳面なところ、変わってないな、可南子は」  穏やかに告げる彼の表情に胸がときめく。変わっていないのは綾人もだ。  五分丈のテーラードジャケットのセットアップにホワイトシャツを組み合わせ、シンプルだけど爽やかにまとめている。長い足をごく自然に組み、仕草ひとつとっても優雅で余裕がある。  彼の育ちの良さは付き合っていたときもいつも感じていた。  見た目は少しだけ変わった。貫禄が増したとでも言うのか。当然だ、彼は乗客の命を預かる副操縦士なんだ。
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