第一章 空港での再会

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 違う。綾人は昔から周りをよく見ていて、困っている人がいたらすぐに行動できる人だった。そういうところを尊敬していたし、好きだった。  溢れそうな想いに蓋をする。私は綾人に会うどころか、想うことさえ許されない人間だ。  三年前、突然別の人と結婚すると切り出し、彼にひどいことを言って私から一方的に別れを告げた。綾人を傷つけて、裏切った。  沈みそうな気持ちを必死に切り替える。今は凌空と一緒なんだから、しっかりしないと。  逆に言うとあれから三年も経った。彼が普通に私に会おうと言ったのは、彼にとっては過去の出来事になっているからで、妙なわだかまりを解きたいからなのかもしれない。なにより綾人には、もう別の相手がいるだろう。  私は気合いを入れ直す。  うん。昔の話ではなく、凌空にハンカチを貸してもらったお礼をきちんと言って、新しいものを渡そう。子どもに見せる母親の姿として、極力誠実でありたい。   とはいえ、綾人と会ったとしても、凌空のことだけはバレないようにしないと。  そこは肝に銘じる。彼にとって過去なら尚更、知る必要はない。凌空が自分の息子で、私が他の人と結婚しなかったなど、綾人は思ってもみないだろうから。  極力思い出さないようにしていたのに、彼と久しぶりに会ったからか、今までの記憶が一気によみがえる。昔のことだと感じる一方で、昨日のことのようにさえ思える。  綾人と出会ったのは大学三年生の夏。就職活動が本格化し、情報交換と息抜きも兼ねて、友人の知り合いで集まったときだ。
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