第一章 空港での再会

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※ ※ ※ 「ねえ。可南子、知ってる? 今日来る進藤くんってRHHのパイロットに内定決まっているらしいよ」  親友の前橋(まえばし)莉愛(りあ)が興奮気味に教えてくれた。RHHは誰もが知る大手航空会社だ。  この時期に内定をもらっている学生は周りにもちらほらいたが、あまりにも特別な職種に注目されるのも無理はないだろう。 「そうなんだ、すごいね」  素直な感想を漏らすと、なぜか莉愛は唇を尖らせる。 「なに、その反応? 薄い! 本当にすごいと思ってる?」 「お、思ってるけど」  なにが不満なのか本気で理解できずたじろぐ。すると莉愛はゆるくウェーブのかかった茶色い髪を掻き上げた。 「パイロットってことは、将来超優良株だよ? しかも彼、あのシャッツィの社長の息子さんなんだって。つまり御曹司! 顔もよくて背も高いらしいよ。さらに高校はサッカー部でキャプテンをしていて、大きな大会に出て成績も残しているスポーツマン。これはもう狙うしかないね」  シャッツィは、正確には【株式会社Schatzi】。誰もが知る、有名な玩具メーカーだ。  その情報にはさすがに私も驚く。彼の歩んできた人生は、おそらく私とはまったく違うのだろう。近づきたいどころか、おそらく実際会ってもなにを話せばいいのか迷ってしまいそうだ。  そんな感情を抱く私とは対照的に、莉愛の表情や意気込みから、本気で進藤くんを狙っていることがうかがえる。たしかに莉愛はいつもフェミニン系の可愛い服を着ていて、メイクや髪もばっちりだ。異性から声をかけられるのは日常茶飯事で、彼氏が途絶えたことはない。そんな莉愛ならもしかして、と思う一方で別の角度に考えが移る。 「でも進藤くんみたいな人なら、もう彼女くらいいるんじゃない?」 「どうだろう。前にすっごく美人な、どこかのご令嬢と付き合っていたとは聞いたけれど……関係ないね。いたとしても本気でいいと思ったら奪うし」  さらりと言ってのける莉愛が恐ろしくもあり、少しだけ羨ましかった。  自分に自信があるっていいな。異性に限らず、なんにでも積極的に向き合える。きっと今から会う進藤くんも同じような人なんだろうな。
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