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向こうで盛り上がっている集団からのご指名に、彼はそちらを見て軽くため息をつくとゆっくりと立ち上がった。私はなにも言えないままその背中を見送る。
そして今になってなんだか心臓が早鐘を打ち出してきた。異性と会話するのはあまり得意ではないのに、まさか進藤くんと一対一で話すなんて。
それにしてもパイロットになる彼に、飛行機に乗ったこともなければ高いところが苦手だなんてなんとも失礼だったかもしれない。でも彼雰囲気がそうさせるのか、緊張しながらも本音で話せた。
ちらりと輪の中で楽しそうに話している彼を見て、ホッとする。私の隣で気を遣わせるよりも彼にはあちらの方がお似合いだ。
時計を見て、私は帰り支度を始めた。
外に出ると湿り気を含んだ空気が肌にまとわりつき、店中との温度差につい眉根を寄せる。外は暗いが、太陽が隠れても夏の夜はそこそこ気温が高い。
二次会はどうするのかと幹事を中心に話している中、進藤くんのそばにいた莉愛の様子がおかしいことに気づいた。
「莉愛、大丈夫?」
「どうしたの? 可南子。大丈夫だよー」
彼女のそばに駈け寄り声をかけると、あきらかにいつもよりテンションが高い。
「大丈夫じゃないよ。酔ってるでしょ? 送っていくから帰ろう」
「えー。平気なのに」
駄々っ子みたいに言うが、莉愛はそこまでアルコールに強くない。前もこんな調子で二次会に行って、あとから気分が悪くなった彼女を介抱して家に連れて帰るのは想像以上に大変だった。
今日はいつもより飲んでいたみたいだし。
「だって進藤くんも二次会行くんだよ?」
甘えるように私にもたれかかり、小声で言い訳してくる。
「はいはい。でも連絡先は交換したんでしょ?」
そう言って私は幹事の方に顔だけ向ける。
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