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けれど、その言い知れない寂しさや不安を埋めるのも彼だった。彼がいるだけでなにもかも特別になる。流れる空気、鼓動の速さ、自分の感情。
触れられたところからまた熱が発生する。苦しい。
『綾人』
切れ切れに彼の名前を呼んで、見つめ返す。すると綾人は困惑気味に笑った。
『その顔は反則だろ』
どんな顔をしていたのか尋ねようとしたら、その前に唇が重ねられる。
『んっ』
柔らかくて温かい感触は、よく知っているのに、いつもどこか夢みたいに感じてしまう。今みたいに体を重ねたあとでも。
その不安が伝わったからなのか、角度を変え幾度となく口づけられる。唇の力を抜くと、そっと舌を差し込まれ、おとなしく受け入れる。これでいいのか、合っているのかはわからない。だって綾人と以外、したことがないから。
甘えるように首に腕を回すと、浮いた後頭部を支えるように手が添えられた。しばらく彼とのキスに溺れ、私から降参を示す。綾人はゆっくりと私を解放した。
『会いたかった』
続けてこつんとおでこを重ねられ、訴えかけられる。
『可南子と会える日を楽しみに、ずっと頑張っていたんだ。だから今日はまだ、たっぷりと愛したい』
言うや否や、綾人は私に触れはじめた。私の答えを聞く気がないのか、それとも聞かなくてもわかっているのか。
ああ、私はやっぱり彼が好きなんだ。大好きで、離れたくない。
実感して視界が涙で滲む。
愛したい。ずっと愛されていたい。
でもこれが最後だ。
大学のときに付き合いだし、卒業したあとも交際は順調に続いていた。けれど社会人二年目を目前にして綾人との付き合いは、もうすぐ終わりを迎える。
大好きな彼との未来を、このあと私自ら手放すんだ。
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