第二章 空を使うしかない関係

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第二章 空を使うしかない関係

 綾人と再会を果たしてから二日後の午後、職場近くのカフェを私から指定し、待ち合わせをした。急すぎる気もしたが、彼はあっさりと了承の返事をくれた。  朝からずっと緊張していて、これが数日続くくらいなら早く終わらせてしまいたいのが本音だ。クライアントに会うつもりで平常心を保つ。  私は大手映像制作会社カサブランカの支社に勤務している。テレビ会社と契約しCMやプロモーションビデオの制作を担ったり、結婚式場と提携して挙式やプロフィールムービーの作成をしたりと扱う映像の種類は多岐にわたる。  市町村のPR動画という公的なものから今はインターネットで動画を配信するサービスも充実しており、クライアントは企業から個人相手と幅広い。  その中で私は動画編集作業を主に担当している。先方の意に添うため数度の打ち合わせはあるが、動画編集自体は在宅でも可能なので融通の利く勤務体制はシングルマザーの自分にとってはありがたい。  打ち合わせや営業で外に出ることも多いので、平日の午後でも時間は作りやすかった。時刻は午後一時四十五分。待ち合わせは二時なので十分に余裕がある。  七分丈のパンツスーツに黒のパンプスといつもの姿で店に入った。 「いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ」  忙しそうな店員に促され、店内を見渡す。白を基調とした外国をイメージしたカフェは平日にもかかわらずそれなりに混んでいる。 「可南子」  テーブル席の方へ足を踏み入れた際、名前を呼ばれ、心臓が口から飛び出しそうになる。空いている席ばかりに目を遣っていたので完全な不意打ちだった。
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