第二章 空を使うしかない関係

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 じっと彼を見つめていると視線が交わる。  彼がなにかを言いかけた瞬間、頼んでいたドリンクが運ばれてきた。  外は暑かったから冷たいものを選んだが、エアコンが効きすぎている店内ならホットでもよかったかもしれない。用事を済ませたから、これを飲んだらさっさと立ち去ろう。 「可南子は仕事中?」  急いでいる気配に気づいたのか彼から話題を振られる。理由は仕事だけではないけれど、ちょうどいい。 「うん。今はカサブランカの支社で働いているの」  さらりと告げたら綾人は目を丸くしたあと、安堵めいた笑みを浮かべた。 「そうか。勝手だけれど可南子が映像系の仕事を続けていて安心したよ」  どういう意図なのか読めずに綾人をうかがう。 「第一志望だったカサブランカに就職が決まったとき、すごく喜んでいたから」  付き合っていた当時の記憶がよみがえる。映像系の業界を志望していた私は、カサブランカの本社に就職が決まったとき、嬉しくて綾人にハイテンションで報告した。 「そうだね。大変なときもあるけど、携わった映像で誰かが喜んでくれるのは、私も嬉しい」  大学を卒業してお互いにの職種に就き、学生の頃より格段忙しくなって会える頻度も減ったが、綾人との交際は社会人になっても続いた。  将来を誓い合う言葉はなかったもののとくに大きな不満はなく、ただこれからも一緒にいられたらと願っていた――。
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