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山口可南子、二十七歳。シングルマザーでひとり息子の凌空を育てている。
身長は百五十六センチとやや平均より低めで、もう少し背が欲しかったにも関わらず、中学の頃からほぼ伸びていない。化粧を覚えてなんとか年相応になるよう努めているが、丸みのある目元や輪郭のおかげで、どこか幼さが抜けないのが悩みだ。
さらにはおとなしそうな印象を勝手に抱かれ、好きに言われることもしばしばある。
しょうがないと受け入れてきたが、今はそうもいかない。私はもう母親だ。ましてやシングルマザーの立場なんだから、凌空のためにも、しっかりしているように思われないと。
髪をもっと明るい色に染めたら印象が変わるかな?
シュシュでゆるく束ねているほぼ黒髪の先に軽く触れる。Tシャツとジーンズというシンプルな組み合わせに、冷房対策にシアーパーカーを羽織っていて大人っぽさもお洒落さもない。
気を取り直して改めて凌空と向き合う。なんとか宥めないと。ただでさえ、苛立っている人が多い。
随分と重くなった彼を抱き上げ、背中をとんとんと叩いた。
ぎゅっとしがみついてくる凌空に愛しさが込み上げる。どうか彼は私に似ずに背が高くなってほしいな。
凌空の父親は背が高いから、どうかそちらに似てほしい。
『可南子』
もう何年も会っていないのに、いまだに彼の声も表情も脳にはっきりと焼きついている。場所が場所だからか、感傷に浸っている場合ではない。
ひとまず姉に連絡しよう。私たちが来るのを楽しみにしているだろうから。それからチケットの払い戻しをして、預けた手荷物がどうなるか確認しないと。
このあとにすることを考えながら、どこかでホッとしている自分もいた。凌空には申し訳ないが、飛行機に乗るのが正直、不安だったのだ。
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