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プロローグ
初めて会ったとき、すぐに彼と私は住む世界が違うと思った。
明るくて爽やかで笑顔が素敵な彼の周りには、男女問わずたくさんの人が集まっていて、楽しそうにしている。その様子を私は少し離れたところから遠巻きに見ていた。
やっぱり選ばれる人は違うんだな。
そんなことを考えながらグラスの縁に口をつけ、レモン酎ハイをちょびちょび飲む。
大学在学中、共通の知り合いを通じて何人かで集まった際に偶然彼もその場にいた。軽く挨拶を交わし自己紹介をしたものの、彼にとって私は大勢のうちのひとりでしかない。特に親しくなることもなく私たちの関係はそこで終わるはずだった。
それなのに――。
『可南子』
よく通る低い声で名前を呼ばれ、反射的に体が震える。つい先ほどまで交わしていた熱が呼び起こされ、あっという間に体を駆け巡った。
切なそうな目で私を見下ろしている彼の表情は、初めて会ったときには想像もできなかった言い知れない色気を孕んでいる。精悍な男の人の顔だ。
首筋から鎖骨にかけての綺麗なラインに視線を走らせる。細身なのに、鍛えていると言っていただけあって、程よく引き締まった体は女の私からしても羨ましい。
見慣れているはずなのに、いつも見惚れてしまう。すると彼の長い指が顔の輪郭に添わされ、続けて焦らすように親指が私の唇をなぞる。
『あ』
『余裕だな。俺はこんなにも可南子のことでいっぱいなのに』
意地悪そうに微笑む彼に、私は眉をひそめた。そんなことない。いつも私の方が翻弄されている。
彼越しに視界に映るのはすっかり見慣れた天井で、背に受けるベッドはいつも彼が使っているものだ。初めてここに来たのはいつだっただろう。社会人はおろか一般的な学生にはとても借りられそうもない広く綺麗な高級マンション。
今でもこの部屋を訪れると少しだけ緊張する。私には縁のない、彼が身を置いている場所とはあまりにも違うと嫌でも思い知らされるから。
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