魔力のない私ですが、歌うときだけ光魔法を放出しているようです

1/6
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 水晶を目の前に無気力に立ち尽くすアンナは、十七歳目前の十六歳だった。最後の魔力測定も虚しく、水晶はうんともすんとも言わない。  十六歳を越えて魔力もちになった者はいない。つまり、公爵令嬢アンナ·リル·フォースティーは魔力なしが確定したのだ。貴族で魔力なしは非常に稀なケースだった。貴族に仕える侍女たち、護衛、料理人でさえ魔力もちだ。  アンナの婚約者、パッサール王国第二王子オルテシアンは冷静に言葉を並べた。 「以前から申していたとおり、魔力が発現しなかったため、そなたとは婚約破棄となる。今までの王子妃教育、それに付随した公務の数々ご苦労であった」  特に悲しむでも憐れむでもなく王子らしい対応だった。  アンナは深く頭を下げた。おそらく新たな婚約者は妹のルオーナになるだろう。彼女は水の魔力をもっているので、国を潤いで満たしてくれるはずだ。  アンナが魔力なしの貴族であるという噂が、王都中に広がった。嫁ぎ先がないと思ったアンナの両親は、しばらくして新しい婚約者を探し出した。  ビスティス·アロ·ヤンダー。ヤンダー領主だが、闇魔法の使い手で、忌まわしきものだと王都から離れた辺境で国防に励んでいた。その名も、闇辺境伯(やみへんきょうはく)。  魔力は火、水、風、土が基本だが、光と闇の魔力を持つ者は珍しく、その中でも闇魔力については研究不足でわかっていない部分が多い。負のイメージが強く、その魔力をもつ者は王都から離される傾向があった。  ルアーナは予想どおりオルテシアンの婚約者となり、どこか誇らしげだった。妹と仲が悪いわけではなかったが、両親とともに、魔力なしを下に見ている傾向はあった。  家族の憐れみの視線が刃のように胸に突き刺さり痛かったが、ようやくその視線からも逃れられる。  アンナはひっそりと家を出た。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!