魔力のない私ですが、歌うときだけ光魔法を放出しているようです

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   *    使用人の服を身にまとったアンナは、城の庭園のど真ん中に立って考えた。花はほとんど咲いていないし、農作物は枯れているか、実がものすごく小さいか、そんなものばかりだった。  庭師のハンスに手伝ってもらい、肥料を持って来て丁寧に巻いて行く。日当たりが悪いので、いくらかは日の当たる場所へと移動した。なぜ日当たりの悪いところに庭園を作ったのかと尋ねたら、そうではないらしい。  最初は全て日当たりのいい場所に植えていたが、どこに植えても育たない。だから逆に日当たりの悪い場所に移して実験をしていたのだという。  気持ちはわかるが、日当たりと水は絶対だと思う。鼻歌を歌いながら土に肥料を撒き、植物の種を植えた。  庭園以外でも日当たりのいい場所に、花の種を植えて水と肥料を撒いた。庭師も驚くほどに手際もよく、さらに植物は今までにないくらいよく育った。 「一体どんな魔法をかけたんだい?」 「私は魔力なしですよ」  アンナはにっこりと微笑んだ。  半月後には、農作物に大ぶりな実がなっていた。それを持ってアンナは料理長の所へ行き、一緒にディナーを作ったり、お菓子を作ったりもした。  自分たちだけで食べてしまうにはもったいないので、ビスティスの休憩時間に持ち込むのが日課になっていた。  いつの間にか数ヶ月経っていたが、無理に王都に帰されることもない。ビスティスがいかに領民に信頼されているかもよくわかった。 「ビスティス様、お茶にしませんか。何と今日はこの領地で取れた茶葉で入れたお茶なんですよ」  アンナは器用に、お茶の準備とお菓子の用意を進めている。これも王子妃教育の賜物だった。 「この領地で?」  ビスティスは眉を寄せ首を傾げた。 「はい。少し傾斜のある場所があるでしょう?あそこに元々茶葉が植えられていたんです。私が来てすぐは全然上手く育っていなかったんですけど、日当たりが悪いのかな?とたまに見に行くようになって」 「お茶の木は日陰がいいのでは?」 「種類によるみたいです。この茶葉は日当たりがいい方がいいみたいですね。通ってわかったのですが、雨も十分ですし日当たりもいいですし、この領地って気温も穏やかで暑すぎることもないですよね?それで最近すごく育ちがよくて」  そう言えば最近、天候が穏やかだった。雨期のように雨ばかりの日もよくあったが比較的落ち着いてる。恐ろしく暑い日や寒い日もあったが、それもない。 「他の農作物も収穫量がいいんだ。俺が数年かけてもこんなことはなかったのに」 「そうでしょうか。こちらに来てすぐ領民のみなさまとお話をしたのですが、ビスティス様の改善案で、これでも昔と比べたらよくなったのだ、と口を揃えておっしゃっていましたよ。領主様のおかげで治安もいいと」  国境にあるのに攻め込まれたこともないのだという。 「よく守って下さっていると」 「それが仕事だからな」 「闇魔法を使っているのですか?」 「多少は」 「どんな力かうかがっても?」  ビスティスはティーカップのお茶をすすり目を細めた。 「闇魔法といってもたいしたことはないんだ。少なくとも俺が使っているものに関しては」 「そうなんですか?」 「例えば、夜どんなに暗くても力を使えば全てが見渡せる。だから夜の奇襲には強いし、夜の戦いで負けることはない」 「それでこの領地は守らているいるわけですね」  ビスティスは頷いた。 「もちろん俺だけではなく、部下たち全員に魔法をかけて、基本的に夜しか闘わないようにしているんだ」 「他人にも魔法をかけられるんですね。じゃあ一緒に夜のお散歩もできますね」  アンナは軽い気持ちでそう言ったが、すぐに返答があった。 「そうだな。今夜などどうだ?星の見え方が全然違うんだ。魔法をかける前とかけた後で二度楽しめるぞ」  さらっとそんなことを言ってのけるビスティスに、アンナははにかみながら答えた。 「そうなんですね。では、今夜楽しみにしております」
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