魔力のない私ですが、歌うときだけ光魔法を放出しているようです

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   *  ここ最近、城内と領地内の花や農作物の育ちがよかった。ビスティスが領地を治めるようになってから初めてのことだ。今までこんなことはなかったのになぜ……  城内を歩いていると、庭園にアンナの姿が見えた。のんきに鼻歌を歌いながら水やりをしている。  ビスティスははっとした。よく見るとアンナの体はぼんやりとした光を放ち、温かな空気が伝わって来るようだった。疑いが確信に変わる。 「……アンナ、大事な話がある」 「ビスティス様、いらっしゃったのですね。どのようなお話でしょうか。悪いお話ですか?」 「……悪くはない」 「よかった!じゃあ何でしょうか」  悪い話ではないが、いい話でもなかった。 「アンナ、君には魔力がある」 「魔力?でも、何度測定しても魔力なしでしたよ」 「そのとき、歌を歌っていたか?」  アンナはきょとんする。 「そのときって、魔力測定のときですか?そんなわけないじゃないですか。公の場ですよ」 「では、今ここで歌ってみてくれ」 「今?」 「今」  真剣なビスティスの様子を見て心を決めるが、恥ずかしいことに変わりはない。 「少し離れて後ろを向いて下さい」  言われたとおり、少し下がり後ろを向くビスティス。しかし、どうしても気になりこそっと振り返る。 「……見ないでって言いましたよね」  アンナが恨めし顔でビスティスをにらみつける。 「わ、わかった。もう見ない」  さらに下がって後ろを向くビスティスを見て、アンナはようやく蚊の泣くような声で歌い出した。声は小さいが鼻歌ではなく、しっかり口ずさんでいる。  振り返って確認する。全身に光の魔力が漲っていた。闇とは正反対だからよくわかる。鋭く冷たい闇魔法とは異なり、温かく柔らかい。  アンナが歌を止めると光はぱっと消えた。 「やっぱり……君は歌っているときだけ魔力を放出しているんだ」 「そんなことってあるんですか?」 「わからない。俺も初めて見たから。すぐに魔力測定へ行こう」 「わかりました。測定の時、歌わないといけないんですよね?この音痴な歌声で……たぶん、全然、平気、泣きそうですけど」  顔をくしゃっとさせて笑うビスティス。 「大丈夫、音痴ではなかったぞ」  全く褒められてはいないので、アンナは微妙な表情を浮かべた。 「十中八九、光魔法だと思う。ということはすぐに国中に知れ渡る。魔力測定は秘密裏には行えないことになっているからな。おそらく王都へ戻るようお達しが来るだろう」  王都へ戻る気はあるか?  そう喉元まで出かかっていたが、返事が怖くて結局何も聞けなかった。
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