魔力のない私ですが、歌うときだけ光魔法を放出しているようです

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   * 「ビスティス様、大変です!王宮からお忍びで第二王子オルテシアン様がお見えになりました」  執事が慌てていたのも頷けた。王宮からの使者が来るとは思っていたが、予想以上に早い。しかも、アンナの元婚約者である第二王子が直々に来るとは……  アンナは予想どおり光の魔力保持者だった。それがすぐに王宮まで伝わったのだろう。 「……客間へご案内しろ。すぐに行く」  執事が出て行ったのを見計らって、ビスティスはアンナに尋ねた。 「殿下に会うのは嫌か」 「いえ、全然」 「婚約破棄されたのに?」 「婚約破棄は前々からわかっていたことですし、むしろ殿下には感謝しているくらいです。妹のルアーナは二歳で魔力が発現しました。その時点で彼はいつでも婚約を解消して、妹と婚約することができたのです。ですが、それをなさらずに十七歳直前まで待って下さいました」  アンナのオルテシアンへの思いを聞いたのはこれが初めてだった。  ギリギリまで待ったということは、アンナが有能だったか、政略結婚ではなく本当に彼女を愛していたのかのどちらかだろう。胸がきりきりと痛んだ。 「常に国民のために生きているお方で、尊敬しております。今日のことを考えてもおわかりでしょう?こんなに早くお忍びでいらっしゃるということは、おそらくアリエルという護衛騎士一人だけ連れていらっしゃっています。緊急時はいつもそうなさっていたので」  やけに殿下に詳しい。それはそうだろう、元婚約者なのだから。自分はまだ婚約さえしていないのに……と洪水のような後悔が後から後から押し寄せて来た。 「危険をかえりみず、それだけのことができるお方です。例えば、私という光魔法の担い手が隣国に出て行っては、国家の貴重な財産を失うことになるでしょう。だからお急ぎになっているのだと思います」  オルテシアンには数年前に会ったきりだったが、まさかアンナにここまで慕われているとは思いもしなかった。その本人が迎えに来たので、アンナは王都に戻ってしまうだろう。婚約破棄されてもなお、こんなに尊敬しているのだから。  それ以上何も考えられなくなったビスティスは、二人でどんな話をしながら移動したのか記憶になく、いつの間にか客間に到着していた。 「第二王子オルテシアン様にご挨拶申し上げます」  アンナはいつものメイドのような格好で、美しいカーテシーを見せた。 「久しいな、アンナ」 「お久しぶりでございます」  にっこりと微笑むアンナを見つめるオルテシアンの眼差しには、何のわだかまりも感じられない。  ビスティスはアンナの斜め後ろに置物のように立ち、呪い魔法のような視線を送る。闇魔法に呪い魔法なんて一つもないのだが。
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