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8 土砂降りの雨
翌朝、目覚めは良くなかった。
飛龍様は私の願いを叶えてはくださらなかった。
と言う事は彼女達は死刑になるのだ。
目覚めが良いはずは無かった。
しかし、もう私にはどうする事もできなかった。
朱雀の姫候補たちと一緒に死刑反対運動をするわけにもいかないし…
そんなの誰もやらないだろう…
暗い気持ちで朝食を食べていると、明明が言った。
「小鈴様、あの噂お聞きになりました?」
「あの噂って?」
「何でも皇帝陛下が刺青で処刑されるはずだった3人を減刑したとか…
法律に従順な皇帝陛下がそれを曲げるなんて、みんな驚いていますのよ。」
明明は言った。
飛龍様…!
「そ、そう!
良かったわ!」
「小鈴様はお優しいのですねぇ。」
少し驚いてそう言う明明に私はニコリと笑った。
♦︎♦︎♦︎
その夜、土砂降りの雨だった。
だけど、私は傘を差さずに、蓮の池のほとりに向かった。
「小鈴!」
「飛龍様!」
私たちは濡れるのも構わず抱きしめあった。
「これで、貸し借り無しだぞ?」
ニヤリと笑う飛龍様に、私は笑顔で頷いた。
そして…
私たちは土砂降りの雨の中、甘い甘いキスをした。
♦︎♦︎♦︎
side春蕾
その日飛龍様は風邪を引かれていた。
ひっきりなしにくしゃみをして、机の上はティッシュの山だ。
「しかし…
こんな暖かい時期に風邪を召されるとは…
不思議な事もあるものですねぇ。」
私はついそう言った。
「あほう、風邪など年中無休だ。
この時期もあの時期もないわ。」
と、飛龍様はくしゃみしながら答えた。
私はそんなものか、と思いながら政務室を出た。
才城の庭に出ると、侍女が飛龍様の衣を干して居た。
はて…?
「おい、何をしておる?」
私はその侍女に声をかけた。
「は、はい、衣を干してございます…!
あの、何かまずい事が…?」
侍女は少し怯えながら言う。
「いや、そうではない。
その衣、まだ、着て1日しか経っておらぬだろう?
なぜ、そんなにすぐに洗うのだ?」
そう、衣は普通2、3日連続で着るものだ。
それが普通であった。
「は、はい。
今日の朝掛かっている衣を見ると、足元が泥で汚れておりました。
だから、洗ったのでございます。
それに少し濡れていて…
皇帝陛下がお風邪でも引かれては大変だと思い…」
その侍女は答えた。
「そうか。
いや、何でもないんだ。」
俺はそう言って去って行った。
飛龍様は昨日の土砂降りの雨の中どこかへ行かれた…?
そして、泥はその時のもので…?
しかし、一体どこに行ったのだろうか…?
謎は深まるばかりだった。
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