1 ローツェ山

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1 ローツェ山

私の名前は小鈴(シャオリン)。 遊郭街の妓楼で下働きの妓女見習いをやっている。 今日も付きのお姉さんにいじめられて、せっせと雑巾掛けしている。 膝が赤くなって来た… そう思った所で、お姉さんのヒステリックな声がした。 「小鈴! 小鈴! 居ないのかい!?」 「は、はい…! こちらで雑巾掛けを…!」 私は怯えながらそう答えた。 「一体いつまで雑巾掛けをやっているつもりだい!? それはもう良いわ! それよりも、ねーぇ? 肩の凝りが酷くてねぇ? お前、黄精の薬草をとって来てくれないかい?」 お姉さんは言う。 黄精の薬草とは、疲労を回復する効果のある物だ。 だが、魔物のうじゃうじゃしているローツェ山にしか生えて居ない。 「お姉さん… あそこは、魔物が多くて…とても…」 私が言うと… 「なんだって!? お前のお姉さんが苦しんでいるのに、薬草一つ取れないのかい!?」 お姉さんは鬼のような形相で言う。 私は折檻も嫌なので、渋々黄精の薬草を取りに行く事にした。 「お前のような骨と皮だけの女を魔物も食わないわよ! さっさと行っといで!」 蹴り上げられてローツェ山に向かった。 ♦︎♦︎♦︎ あぁ… どうか、魔物と遭いませんように… そう願って山の中に入る。 奥の方に歩いていくと、黄精の薬草を見つけた! 良かった! これで…! そう思った時、何匹かの狼に囲まれている事に気がついた。 あぁ… 短い人生だったわ… もう私は覚悟を決めた。 狼が涎を垂らして飛びかかってくる。 その時! 炎が迸り、狼を焼き殺してしまった。 だ、誰…!? 炎魔法の使い手が…!? 『決めた。 心優しきそなたにしよう… 汝が我を呼ぶ時いつでもその呼びかけに応えるだろう。』 そこには真っ赤な髪の美青年が立って居た。 彼は私にキスすると、消えていった。 え…!? げ、げ、幻覚!? 私は怖くなってローツェ山を下りた。 帰りには不思議な事に魔物に遭う事は無かった。 黄精の薬草をお姉さんに渡すと舌打ち混じりにこう言われた。 「チッ、しぶとい子…!」 とりあえず、難は逃れたようだった。 そして、その日お姉さんの上客の1人がやって来て、宴が開かれた。 私は宴で舞を踊る。 お姉さんはお客さんにしなだれかかり、愛想笑いをする。 「お久しぶりですこと。 寂しかったですわぁ。」 「はははっ! 可愛いやつよ! 今日はたっぷり可愛がってくれるわ!」 お客さんはお姉さんを抱き寄せる。 私ももうすぐ水揚げの時だ。 そうすれば、お姉さんのように見も知らぬ客に抱かれなければならない… それは、ローツェ山よりも怖かった… だけど、それが妓女として売られた運命なのだ。
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