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短い階段を上がり、庵に入った。
床は地面から二尺あまり、高床と言うには足りない。本格的な寝殿造りとは違う。
「・・・にしても」
明静は首をひねった。
外からの印象と同じ、中に入っても古びている。右の柱と左の柱で、太さと色が違っていて、なんとも不調和な様相だ。
蓮生が笑って説明を始めた。
「隠れ家を造るにあたり、あちこちの廃屋などから古材を集めました。襖も古屋からのいただき物です。畳だけは新調しましたが」
「なるほど、古材を集めたからの趣ですか。あなたにとっての糞掃依が、この庵ですね」
明静は納得して手を合わせた。
自分の着物も糞掃依と言うにはボロさが足りない。仏門に入った者として、もっとボロな物をまとわねばと思うことも。
が、関白や摂政などという位の人と会うには、糞掃依は使わせてもらえない。遅くとも前日までに、強制的に風呂に入れられ、頭を剃られ、ピカピカな法衣を着せられる。三月、精撰本を提出する時がそうだった。
ボロは着ても 心は錦
どんな花より きれい・・・
時代違いの歌を口ずさみかけ、首を振った。
「わたしなど、欲にまみれた凡俗から、まだ半歩も踏み出せていないのに・・・」
明静は自嘲する。
ざざざっ、雨が屋根をたたき始めた。庵の屋根は薄く、頭を直に叩かれているようにも感じた。
蓮生は奥の囲炉裏端に案内した。雨のせいか、昼と言うのに奥の間は薄暗い。
火が入れられていた。煙が天井へ上っていく。
煙があると、虫が寄って来ない。耳元が静かになって、心は落ち着く。
「お気楽にして下さい」
「我らは出家の身。我らが座るところは、すべて下座です。上座は仏陀のおわすところのみ」
「そのはずですが、寺に入ると、そうも言っていられません」
「そうなんですよね。だから、わたしは寺に参りたくない」
糞掃依にあこがれる破戒僧は言う。
蓮生は多くの寺社を造り、また修繕にかかわってきた。親しいながら、二人の立場は大きく違う。
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