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雨戸を閉じれば、寝所は静かなもの。
板の床に、畳を二枚敷き、寝床が作られていた。高さ四尺ほどの衝立障子で囲み、中で香を焚く。虫除けを効かせれば、夏でも静かに眠れる。
「若ければ、地べたでも眠れるのだろうが」
明静は腰を落とし、肩を回し、首を回した。歳をとった、また自覚する。
「主さま、よろしいでしょうか」
女従者のウメとクメが添い寝をせがんできた。
「男どもは?」
「今夜は厩で過ごすみたいです。武者さまたちと、何かあるみたい」
「ああ、サイコロか札遊びだろう」
武士たちは歌で遊ばない。代わりに、刀や弓で遊ぶ。小さな遊び道具として、サイコロが流行っていた。大きな声で騒いだり怒鳴ったり・・・あの場に混じれる女は、めったにいないだろう。
明静を中に置いて、左右に女が並んで寝る。冬には暖かく、ありがたい。
ウメの歳は三十半ば、クメは十歳を過ぎたばかり。血のつながりは聞かない。人が簡単に死ぬ時代だ。子を亡くした女と、親を亡くした子が出会い、母と娘を演じていて不思議ではない。
女たちが左右から手と足をからめてきた。
若き日の藤原定家なら、とっくに手をつけたはず。
下働きの婢が孕んだとて、父親が誰かとは詮索されない。産まれた子が育ち、何か特別な才を発揮したら、藤原の家の子と認知するだけ。藤原の家が求める才は、読み書きと算術だ。他に、和歌に優れていれば、藤原の姓を名乗らせる場合も・・・他の家ではあったようだ。
枯れたなあ・・・娘も同然、孫も同然の女たちと触れながら、眠りに落ちていった。
夜明け前、起きた時は一人だった。すでに、女たちは台所へ行っていた。
縁側に出れば、屋根から夜露が垂れていた。
「夜露に濡れる袖・・・そんな歌もあったなあ」
ゆるやかな風が木の葉や草を揺らし、音をたてる。
朝は虫もカエルも静かなもの。夜に鳴き疲れたのか。おかげで、川の水音もよく聞こえた。
朝日が山の頂に当たった。赤く、燃えるように輝く。
蓮生が朝の読経をしている。歌を詠むような声は、耳に心地好かった。
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