第一ノ節

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 破戒僧は朝の勤めをしない。腹をかきながら、朝飯を待つ。  庵の主、蓮生が朝餉を告げた。昨日の鹿汁の残りを温めて、主椀とする。  明静は女たちと並んで朝飯。都の本宅では、あれこれと格式が煩いが、ここでは身分を問う必用は無い。 「男どもは帰って来たか?」 「厩で倒れてます」  やれやれ、と苦笑い。 「後でな、握り飯と白湯をとどけてやりなさい」  ウメとクメは笑って肯いた。  蓮生は椀を空にして、白湯で口をゆすぐ。  この時代、茶は贅沢品。薬の扱いだ。水を沸かして、殺菌して冷やした白湯も・・・少し贅沢なもの。 「時に、明静どの。歌の撰びは、いかがですか?」  朝から歌の話題を振られた。  明静も椀を空にして、白湯をすすった。 「まず、一首、あります」 「ありましたか」  蓮生が身をのりだす。 一首目  秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ  わが衣手は 露にぬれつつ        天智天皇 「秋の田の・・・もうすぐ、そんな季節ですね」  蓮生は受けて肯いた。 「田や畑には、多くの獣が来る時期です。熊に鹿、狐や犬など。時には、盗人も来ます。田畑の作物を守るのは、まさに戦いでありましょう。どちらが生き残るか、命がけにもなりましょう」 「戦いに備えて・・・きびしい歌ですね」  明静の説明に、むむっ、蓮生は口を一文字に結んだ。
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