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破戒僧は朝の勤めをしない。腹をかきながら、朝飯を待つ。
庵の主、蓮生が朝餉を告げた。昨日の鹿汁の残りを温めて、主椀とする。
明静は女たちと並んで朝飯。都の本宅では、あれこれと格式が煩いが、ここでは身分を問う必用は無い。
「男どもは帰って来たか?」
「厩で倒れてます」
やれやれ、と苦笑い。
「後でな、握り飯と白湯をとどけてやりなさい」
ウメとクメは笑って肯いた。
蓮生は椀を空にして、白湯で口をゆすぐ。
この時代、茶は贅沢品。薬の扱いだ。水を沸かして、殺菌して冷やした白湯も・・・少し贅沢なもの。
「時に、明静どの。歌の撰びは、いかがですか?」
朝から歌の話題を振られた。
明静も椀を空にして、白湯をすすった。
「まず、一首、あります」
「ありましたか」
蓮生が身をのりだす。
一首目
秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ
わが衣手は 露にぬれつつ
天智天皇
「秋の田の・・・もうすぐ、そんな季節ですね」
蓮生は受けて肯いた。
「田や畑には、多くの獣が来る時期です。熊に鹿、狐や犬など。時には、盗人も来ます。田畑の作物を守るのは、まさに戦いでありましょう。どちらが生き残るか、命がけにもなりましょう」
「戦いに備えて・・・きびしい歌ですね」
明静の説明に、むむっ、蓮生は口を一文字に結んだ。
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