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「有羽、さっきの……」
観覧車をおりて再び大勢の人で賑わうマーケットの中を進みながら、修哉が有羽に囁く。
「もう1回ちゃんと聞きたい」
「あ!修、あれ!次はあれ乗りたい!」
有羽は巨大な城のような形をしたカラフルな滑り台を指さしながらはしゃいでみせた。
「……ああ、わかった乗ろう」
「冗談だって。あんな可愛くてカラフルなお子様向け遊具にバカデカい形したおまえと俺が男2人で乗れるかよ」
「…………」
黙ってしまった修哉を見て有羽は吹き出した。
「そこでしょげるなよ!」
有羽は修哉の腕に自分の腕を絡めながら明るい声で言う。
「陽が影ってきて寒いからホットワイン飲もう。俺はホットチョコ飲みたい!」
屋台を回り、身振り手振りを使ってホットワインとホットチョコ、大振りのソーセージが入ったホットドッグ、プレッツェルを買い込み、並んで食べながら歩いた。
仕事以外で時間もひと目も気にせずにふたりで外でゆっくりするのは初めてだった。
「寒いからあっつい飲み物が美味い!」
有羽は左手にホットチョコ、右手にプレッツェルを持ってニコニコしている。
楽しそうな有羽の横顔を見て修哉は目を細めた。
それからクリスマスツリーの飾りや、クリスマス雑貨を扱う屋台を一軒一軒じっくり見て回った。
「みんながニコニコしてて……頰がぴかぴか輝いてる」
そう言って穏やかに微笑む有羽こそが誰よりも綺麗に輝いて見えて、修哉はその手を握るとコートのポケットの中に入れた。
有羽は修哉に身を寄せながらゆったりとしたペースで歩き、小さな声で囁いた。
「ホテルに戻ったら……ちゃんと言うから」
雑踏の中でも修哉は有羽の声を聞き逃さず、繋いだ手に力を込めることでそれに答えた。
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