act.1

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act.1

声色も声量も音域も、そしてその容姿でさえ他の追随を許さない。 超人気ユニット『CHRYSALIS(クリサリス)』のボーカル有羽(ゆう)は絶大な人気を誇っていた。 そしてCHRYSALISの作詞、作曲、編曲、ギターのすべてを担当する天才ギタリスト天城修哉(あまぎしゅうや)も、そのカリスマ性で数多くの人間を(とりこ)にしている。 「あのふたりは完璧だもん」 「あんな奇跡みたいなユニットはない」 「神×神は、もう悪魔だよね」 ファンはもちろん、ファンでなくても有羽の歌声や姿を見た者は皆、その人間離れした美しさと七色の声に驚愕する。 そして修哉もまた10代で10社以上の事務所からスカウトの声が掛かり、4人組のユニットを結成し、そのプロデュースを一手に引き受けて大成功をおさめている。 ソロとしてもミリオンヒットを連発している修哉は絶大な人気と知名度を誇っている。 それぞれに魅力的なふたりが結成したユニットはある日彗星のように現れ、瞬く間に頂点にまで登り詰めた。 そして活動開始から2年目にしてアーティストなら誰もがその舞台に立つことを夢見るステージに、ふたりはいま立っていた。 収容人数日本一の会場が超満員になるほどの人気で、チケットは発売開始とほぼ同時に売り切れ、プラチナチケットとなった。 会場の外にはチケットを手に入れることができなかったファンが溢れ、列をなして見守った。 有羽が発するたったひと言、修哉が奏でる一音ひとつで会場が揺れる。 目眩するほどの熱気とファンからの愛情、そしてそこにいるすべての人間の一体感と興奮に包まれて、有羽はその日、いつにも増して艶めいて見えた。 ライブスタッフ、事務所の人間、マネージャー、関係者の全てがふたりを絶賛するなか、修哉だけが有羽を心配していた。
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