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ライブ中のほんのわずかな休憩時間に修哉は舞台裏で有羽に声をかける。
「少し飛ばしすぎじゃないか?」
周りをメイクやスタイリスト、ライブスタッフに囲まれ、タオルで汗を拭い、スポーツドリンクを飲みながら有羽が笑う。
「ここで飛ばさないでいつ飛ばすんだよ?夢にまで見た憧れの舞台に立ってるっていうのに」
ふたりを休ませ、衣装をチェンジさせるため、ステージではバンドメンバーがインストルメンタルの曲を演奏している。
修哉がこの日のために特別に作った曲だ。
「身体、平気か?」
「え⁈何て?」
ステージからの大音量に邪魔されて修哉の低音が聞き取れず、有羽が聞き返す。
「身体は大丈夫か?」
修哉が声を張って繰り返すと、有羽は笑顔を見せた。
「平気もなにも、絶好調だよ。おまえには俺が調子悪そうに見えんの?」
「……いや、そういうわけじゃないが」
修哉が口ごもると有羽は柔らかく笑った。
「俺、いま最高に幸せ」
「ならいい」
「修、おまえは?」
有羽に訊かれて修哉もまた柔らかい微笑とともに答えた。
「俺も最高に幸せだ」
そこでステージから聴こえてくる曲調が変わり、ふたりの出番が近づいてきた。
「行こう修」
「ああ」
ふたりは最後にもう1度タオルで汗を拭い、水を一口飲んでからステージに向かって暗い通路を歩いていく。
光が差す方へとーーーー。
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