act.1

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約3時間のステージのラスト、ファンのアンコールに応えて有羽は完璧な歌声を届けていた。 ステージの真ん中で両手を高々と掲げて歌う有羽に、そこにいるすべての人間が釘づけになり、激しく心を揺さぶられる。 伸びのあるビブラート。心臓を貫くような甘く鋭い声色。 誰もが惹きつけられ、魅了される艶めいたその歌声は隣に立ってギターを奏でている修哉のことも例外なくゾクゾクさせる。 何度聴いても、いつ聴いても、鳥肌が立ち、脊髄を鋭い電流が駆け抜けるような衝撃を受ける声。 そして、その瞳。 見る者を一瞬で虜にし、他のすべてが目に入らなくなってしまうほどの。 妖しく艶光る琥珀色の宝石。 冷たく冴え冴えとしたその瞳に吸い寄せられ、魅せられ、酔いしれる。 まるで麻薬のように頭が痺れて、心が満たされて、他のことは何ひとつ考えられなくなる。 だからその声と瞳を何度でも求めてしまう。 もっともっと欲しくなる。 ずっと聴いていたくなる。 彼の声がないと、その瞳が見られないと、 生きていけないーーーー。 ああ、でも、 もうすぐ終わってしまう。 ステージの上の有羽もまた5万の観客の想いと熱い眼差しをその身に受け止め続け、エクスタシーにも似た快感に酔いしれていた。 ーーーー終わりたくない。 修哉が自分のためだけに創ってくれた曲を、歌詞を、そしてそのギターの音色を感じていたい。 彼の音楽に抱かれていたい。 もっと、もっと……。 その曲の最後のフレーズを、有羽はこれまでで1番長く伸びのあるビブラートで締めた。 それには観客も、そして修哉も驚かされた。 そんなに息が続くのかと。 そんなにも美しい最後があるのかと。 そしてすべてが最高潮に達したその瞬間、 有羽はステージの真ん中で眩しいほどの光に包まれ、恍惚とした表情のまま目を閉じて……。 修哉の腕の中に倒れた。
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