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奈緒と匠を部屋に迎え入れるようになってからひと月が経った。
子供の成長は早く、奈緒の腕の中から解放された匠はみるみる筋力を身につけ、今や部屋中を自在に這うことができるようになっている。立ち上がる日も近いだろう。
「いつもすみません、迷惑ばかり掛けてしまって」
「いいですよ。私も匠くんの成長を見るの、楽しみなので」
清香と奈緒は二人がここから出ていけるよう、作戦を立てていた。男は奈緒の通帳を握っていると言う。奈緒の収入は当てにできない。
清香は奈緒に援助を申し出た。マンションの高い部屋に住む、その目的を叶えた以上、あまりにも高い報酬は清香には不要だった。最初は遠慮していた奈緒だったが、それが最も匠のためになると、受け入れることを決意した。
不意に、インターホンが鳴った。
「はい」
「食事を届けに来ました」
モニターの向こうには黒い服を着た配達員が映っている。先ほど頼んだ食事だろうか? それにしては早い気もするが……。
違和感を覚えながらも、清香はそれに応じた。
ほどなくして部屋の前のインターホンが押された。扉を開けた瞬間——。
隙間から刃物が差し込まれた。
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