12人が本棚に入れています
本棚に追加
脇腹に微かな痛みを感じた。手で押さえると服に血が滲んだ。
「お前か」
男は扉の隙間に足をねじ込み、玄関先に並んだ靴を見てそう吐き捨てた。
「奈緒を隠してるのはお前だろう。奈緒を出せ」
男の風貌はロビーをうろついている半グレの姿とよく似ていた。奈緒の居場所を知ったのも、その筋の仕事を生業としているからなのだろう。
男は土足で部屋に踏み入った。
「清香さん……?」
「奈緒ちゃん、来ちゃダメ」
「やっぱり居るんじゃないか。おい奈緒。隠れて何コソコソやってんだ。戻れよ」
「来ちゃダメ! 刃物を持ってる! お風呂場に逃げて鍵掛けて!」
「オイオイ、無駄なことするなよ。逃げ場なんてどこにもないんだから! 警察呼んで困るのはお前らの方だからな! 男に寄生するしか能がない屑は大人しく言うこと聞いてればいいんだよ!」
男は清香を組み敷き、床に刃物を突き立てた。
「お前はそこで大人しくしてろ」
清香は震えていた。だがそのまま行かせる訳にはいかなかった。自身を奮い立たせ、男の裾に縋り付いた。
男は舌打ちをすると、清香の鳩尾を強かに蹴り飛ばした。先ほど刃物で傷を負った箇所を。
清香は呻めき、意識を手放した。
最初のコメントを投稿しよう!