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「折宮、久しぶり」
放課後、武道場に向かったアタシを呼び止めたのは、鹿島先輩だった。
喧嘩両成敗とのことで、鹿島先輩も石井も5日間の謹慎、部活にも出られない日が続いていた。
短いけれどサラサラしていた先輩の髪は、跡形もなく、五分刈りに刈られていた。
「先輩! どうしたんですか? その髪!」
鹿島先輩は照れくさそうに頭をかいた。
「ちょっと、けじめ」
そう言うと先輩は勢いよく頭を下げた。
「悪かった。オレ、折宮を無用に傷つけた」
「え? それで髪切っちゃったんですか? これから受験だと言うのに。いや、アタシなら大丈夫ですよ、そんなに気にしないでください」
ワチャワチャとアタシたちがやり取りをしていると後ろから声が響いた。
「駄目です。そんなんじゃ誠意が感じられない。また同じ事を折宮に繰り返すかも知れない。けじめと言うなら、今後一切、折宮に近づかないで頂きたい」
アタシと鹿島先輩は声のした方を振り向いた。
この声……。
「石井っ!!」
鹿島先輩とアタシの声が重なる。
「久しぶりッスね、先輩。俺は先輩には謝りませんよ。未だに許せないって思っていますし」
真顔で言う石井に、鹿島先輩がムッとした表情を見せた。が、すぐに真顔になり、再びアタシに頭を下げた。
「折宮、本当に申し訳ないことを言った。ごめんな。石井が言うように、言ったことは取り戻せない。だから、俺はこれからは折宮の助けになるよう、頼りになる先輩として……」
鹿島先輩が言い終わらない内に、石井がアタシの手を引いて走り出した。
「そんなの、要らねぇよ!」
遠ざかる先輩が、何か叫んでいる。
アタシは石井に手を引かれて走りながら、鹿島先輩に軽く頭を下げた。
石井に連れられてやってきたのは校舎の裏庭だった。
アタシたちはしばらく、大きく息をついた。
「っはぁ、5日も外に出ないとやっぱ体が鈍るな」
石井が呟いて、アタシの手を引っ張って自分と向き合わせる。
???。
何?
「何も気づかないか?」
石井がアタシに言う。
???。
ハテナだらけのアタシの表情に気づいたのだろう。
石井が吐き捨てるように言う。
「鈍いやつ」
石井をジッと見つめてアタシは気づいた。
あーーー!!!
目線の高さが同じだ!!!
気づいたアタシに石井がニヤリと笑った。
「俺、ここ数週間で身長5cm伸びたんだよ!お前のこと、すぐに追い越すからな、楽しみに待っとけ! 俺は、まだまだ のびる!」
宣言した石井とアタシの間を、爽やかな風が吹き抜けて、緑の葉がのびた木々をざわざわと揺らめかせた。
〈了〉
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