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「ねぇ、桐ちゃん。なんか変じゃない? どうしたの?」  昼休み、いつものように食堂ホールでお弁当を広げていたら桃ちゃんが不思議そうに顔を覗き込んできた。  このコ、普段はぼーっとして見えるのだけど時折鋭いんだよな。    昨日、石井から言われた言葉が頭から離れなかった。石井はアタシに「ずっと見てた」と言った後、何事もなく、サッサと着替えて帰って行った。  だから別に何の意図もないと思う。  なのに、アタシは朝から何となく石井の事を考えてしまっていた。  桃ちゃんに話そうかなぁ、と思ったところに後輩たちがやって来た。  手に包みを持っている。 「王子(プリンス)、私達、王子のファンなんです。これ、作ってきたので食べてください」  差し出されたのは可愛らしい容器に入ったお弁当。 「朝早く起きて作ったんです。唐揚げとオムライスです」 「私はサンドイッチです」  眼の前に、色とりどりのお弁当が開かれる。  気持ちは嬉しいけれど、困ったな、と思う。  背が高いだけで、アタシの食はそんなに太くない。  でも目をキラキラさせて、アタシがお弁当を食べるのを見守る後輩たちを、ガッカリさせたくなかった。 「あ、」りがとうと言おうとした時、ドカッと音がして、隣の席に誰かが座った。  並べた弁当を取り上げ、ムシャムシャと食べ始める。 「い、石井?!」  後輩たちも桃ちゃんももちろんアタシも、その場にいた全員があ然とした。  突然やって来て、人の弁当を食べ始めるコイツはなんなんだ。 「唐揚げ少しだけパサッてるけど。下味はいいな。鶏に火が入りすぎ。こっちのサンドイッチは、ハムを挟むならマヨネーズより辛子を少しだけ混ぜて辛子マヨネーズにした方がアクセントになると思う」 「なっ!!!」  突然食レポされた後輩たちは目を向いた。 「お前たち、折宮のファンなんだろ? じゃあ上手くできた弁当を渡したいって思わないのか? 上手くなるまで俺が食ってやるから、弁当は俺に渡せよ」 「な、なんでアンタなんかにっ!」 「やめなよ、2年の石井先輩だよ」  そんな話をして、後輩たちはそそくさと石井が空にした弁当箱を片付けると頭を下げて走り去った。  後輩たちを見送り、何事もなかったように立ち上がって歩き去ろうとする石井に、桃ちゃんがにこやかに話しかけた。 「かっこいいじゃん、石井くん」 「はぁ?!」 「は?」  石井とアタシが同時に言う。 「なんで?」  またもや同時。 「だって、キミ、桐ちゃんを助けたじゃない」    そんなバカな。  石井が反論しかかった時、校内放送が流れた。 「2年1組、折宮桐子さん、至急3年1組剣道部部長、鹿島まで来てください」  アタシはため息をついて、弁当箱をしまった。  また、鹿島先輩か。  あの人、昼休みですら呼び出すんだよなぁ。  練習のことかな。 「行ってくる」  桃ちゃんに言うと、彼女はひらひらと手を振った。  歩き始めると、石井が着いてくる。 「何?」  尋ねると、ぶっきらぼうに答えた。 「別に……」  あぁ、もうっ、コイツ、ホント理由が分かんないな。
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