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3年1組に着くと、椅子にふんぞり返って座っている鹿島先輩が見えた。
先輩はアタシと石井を見て、明らかに機嫌が悪くなっている。
ホラね、言わんこっちゃない。
アタシが石井を見ると、石井はひょいと肩を竦めた。
「折宮、お前は一人でここに来られんのか」
なぜかは分からないけれど、怒りを押さえた口調で鹿島先輩が言う。
面倒くさいなぁ、たまたまなんだけど。と思いながら謝ろうとすると、石井が口を開いた。
「練習の事だと思ったので、自分もついて来ました。権田先生にも、部長引退後の男子部のまとめ役を正式に依頼されましたので」
「ふんっ、俺はまだ引退してないがな」
先輩はなかなか本題に入らない。
黙ってアタシと石井をジロジロ見る。
「お前たち、付き合ってるのか?」
は?
この先輩、頭おかしいのか?
どうしてそうなる。
貴重な昼休みに呼びつけて、聞くことか?
石井だって笑い出すに決まってる。
アタシの思考はこんな風にグルグル回っていたし、石井も黙っていたので鹿島先輩は勘違いしたようだ。
「部内恋愛は禁止だぞ。部内の士気が落ちるからな。後輩たちにも示しがつかんだろ」
鹿島先輩が言うのは、初めて聞くルールだ。そうだったんだ。
「それは、いつからあるルールですか? 聞いた事がありませんが」
石井が鹿島先輩に尋ねる。
「今だよ、たった今! 剣道部のルールはオレだ!」
今日の鹿島先輩はおかしい。
こんな理不尽な言い方をする人だっけ?
そう思っているアタシの隣で石井が言う。
「折宮の側にいる俺が邪魔だ、とはっきり言えば良いのに」
石井は何を言ってるんだ?
コイツも今日はおかしい。
みんなどうしたと言うんだ。
石井の言葉を聞いて、鹿島先輩が笑い出した。
でしょうね。
そうなるよね。
鹿島先輩の笑い声を聞いて、アタシはそう思った。
「オレが? 折宮を好きってか? ないない。大体コイツ、女に見えたことないし。王子だろ。コイツのどこに異性としての魅力があるんだ?」
鹿島先輩の言葉が皆まで終らない内に、石井が先輩を椅子ごとふっ飛ばした。
「石井! おまえっ、3年に何を……」
「……っにが、3年だよ。本当は折宮が好きなくせに! 側に置いときたいから色々指示出しを口実に呼びつけてたくせに! 昼休みの呼び出しだって、弁当をたくさん渡されて困ってた折宮を助けるためだろ。なのに……やり方がだせぇんだよ! 自分の照れ隠しの為に、折宮を傷つけるんじゃねぇ!!!」
口が開いて塞がらないとは、この事だ。
二人のやり取りに、昼休みの3年1組がどよめいた。
頭の中が真っ白で動けない。
なぜ?
どうしてこうなった?
理論づけての説明が全くできない。
騒ぎを聞きつけて駆けつけて来てくれたのは、同じ学年で隣のクラスにいた女子剣道部の佐渡先輩だった。
佐渡先輩は呆然としているアタシと、椅子ごと倒れている鹿島先輩、石井を手早く教室から連れ出した。
そして顧問に鹿島先輩と石井を引き渡し、アタシを保健室へ引っ張って来た。
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