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──また伸びた……
泣きたくなる気持ちを押さえて、アタシは記録表を胸に抱えた。
「折宮 桐子、175cm。折宮、去年より3cm伸びたわね」
計測しているのは保険医の舟田 美和先生。
がっくり項垂れたアタシの背中をポンと叩いて言った。
「モデルになれる身長だよ、羨ましい」
「美和ちゃん、それには、顔とか胸とかがぁ!」
「折宮、あんたグラビアモデルになりたいの?」
──なれるもんなら、なりたいわい
と言う言葉は飲み込んだ。
「桐ちゃん、健康診断どうだった? 私、ダイエットの甲斐なく、1.5kgデブってたよ。身長伸びてないのに、横に伸びた」
健康診断が終わった途端にチョコレートをもぐもぐ食べているのは、親友の田崎 桃子。
桃ちゃんは150cmくらいの身長で、アタシが抱きかかえたらすっぽり腕の中に収まるサイズ。
本人は嫌だと言っているけれど、ホント、心底羨ましい。
「身長、3cm伸びたよ。体重は減ってるのに。まぁ
、高いところの物取るのには便利だよね」
気にもとめてない、って感じで答えると桃ちゃんは、座ってるアタシの肩を何も言わずにポンポン、と叩いた。
何なんだ? 相変わらず変なやつ。
アタシ、折宮桐子。高校二年生。
身長175cm。体重は秘密だけど細身。
顔立ちだってそんなに悪くはないと思う。
如何せん、女子に見えないだけで。
そう、アタシはモテる。
……女子に(涙)。
ついたあだ名は王子。
慕ってくれる後輩もいるっちゃ、いる。
だがしかし。
女子(涙、2回目)。
宝塚歌劇団じゃないんだから、さ。
でも、自分より背の高い男子に守られてみたいなんて言えないよ。
ガラじゃないし、気持ち悪がられるだけ。
だってアタシ自身が王子なんだもん。
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