VII

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ーーSide 矢上勇登 「ふざけないで!」 「悪い」  投げられた卓上時計が額を掠めて血が出た。 「おかしいと思ってたの。30過ぎても結婚の話を先延ばしにして!」  この一年、友梨との結婚の話を怠惰なままに延ばしてしまった。  式場の見学がしたい。両親に挨拶がしたい。  なんとなく気乗りがしなかった。  多分、これからも気乗りがしないはずだと思って別れを切り出した。三時間、自分のどこが嫌いなのか、浮気じゃないのか、信じられないと暴れられて、今に至る。  “好きだったのに”は一度もなかった。それはきっと、そういうことなんだ。 「ホントこの3年無駄にした! バイバイ!」  友梨はアパートを出て行った。  アパートの費用も家具も殆どが俺の財布から出したもので友梨だけのものは殆どなかった。 * (もう少し早くフってやればよかった)  決断を先延ばしにしてしまったのは、また次の相手を探すのがダルいと思ったから。 (どちにしろ最低だな)  一人で手当てをしているとメッセージが来た。  嬉しいと、思ってしまった。
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