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IX
ーSide 猪塚美晴(31)
「むかつく。むかつくむかつくむかつく」
街中で私は地団駄を踏む。
背中見せロングワンピがヒラヒラまとわりつくけど、気にしてなんていられない。
踏み入られなくても、踏み込まれてもむかつく。
「ねぇ、私達の人生さ、こんな風に言われて悔しくない? 私は悔しい。矢上はどう?」
「俺はもう慣れたよ」
無理矢理デートに誘われた矢上は不服そうで、それもまた私のボルテージを上げていく。
「この婚活ゲームを降りたい。火急的速やかに降りたい。それなのに。恋がしたい。一生に一度でいいから胸を焦がすような恋がしたい。そんなささやかな願いが叶わない世の中に絶望して私は矢上の実家を焼く」
「勘弁してくれ。行くぞ」
*
レストランでちょっと良いお肉を食べる。ショッピングモールで見たこともないお店をまわる。今は芝生の上でキッチンカーの珈琲を飲んでいるところ。
(なんだ。普通にデート出来るじゃん)
不服だけど、矢上との時間はいつも悪くない。
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