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III
ーSide 猪塚美晴(29)
喫茶店。デート終わりに私は矢上を呼び出した。
我ながら血走った目をしてメンチを切っていると思う。
「いや、条件に合う奴だったじゃん?」
悪びれもせずにこんな風に言ってくる矢上は、多分、絶対、あり得ないくらい頭が悪い。
「......。」
「何が不満なんだよ。お前の要望、全部叶えてるだろ?」
そうだけど、そうじゃない。
「高梁、良い奴だし、身長185cm、△△大卒で、メガネをかけた知的系イケメンだし」
「確かに良い人そうだったけど! 服がダサい! あ、あと、喋り方がどうしてもダメだったの!」
「人の友達をそう悪く言うなよ。友達いなくなるぞ」
矢上の正論はいつだって耳に痛い。でも、私にだって言い分はある。
「29歳で定職に就いてない男と付き合うの、リスクでしかないよ!」
「そんなこと言われてもなぁ」
高梁の良さを語る矢上は、全然私のことを考えてくれてない。
「全部の理想を叶えてくれる相手じゃなきゃ嫌だって言ってたら、独身期間が延びるどころか一生独身だぞ」
これだから結婚間際の奴の上から目線はウザい。私は伝票にお金を挟まずに投げ付けた。
「私、普通の恋愛がしたいだけなのに!」
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