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いきなり、グロテスクな話を失礼するが、今自分の脚が千切れたとしよう。
それはもう、分かり易く、左脚だけ自分の体から解離したのだ。
原因はなんだっていい。交通事故の真ん中にいたとか、豪雨への供物になったとか、なんだっていい。
その時、愛する家族――愛せない家族も存在することを注釈しておく――が君の名前を鳴き叫び、駆け寄る方はどちらだろう?
千切れた脚だろうか?残された体躯だろうか?
僕は、小学五年生の夏、葉月のカリギュラに吸い込まれてしまった。
回転する扇風機に、右手の人差し指を入れてしまったのである。
説明書に大きな文字で書いてある過失を、犯してしまったのである。
その後のことは、よく覚えていない。僕は絶叫したし、両親は指を失くした僕を、病院へ運び込んだ。
しかし、"僕"はそれじゃなかったんだ。
意識は脳みそにあるし、そのおかげで自身の運動をコントロールできる。が、違うんだ。
僕は人差し指なんだ。人差し指が僕なんだ。あのとき駆け寄るべきだったのは、血まみれで深爪な指だったのだ。
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