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今の僕が何か、分からない。知能が低くなった訳でもないし、反射神経も鈍っていない。
しかし、空っ方だ。空っ方で、ボロボロだ。
空っ方なので、夢がない。
そのことが、人差し指を失う=僕を失う、と云う等式を気付かせた。
退院したのが、八月三十一日だったので、僕は、僕の指の噂が広まった教室に足を踏み入れることになった。
ギブスをつけたヒーローの様に、稀有と心配と、興味と……そんな目で見られると思っていた。
しかし、5年一組がこの夏失った物は、もっと大きく、凄惨だった。
教室の扉を開けた、直ぐ真ん前は、シルエット・Qの座席だ。
普段なら、大袈裟に椅子を引き、彼の友人との談義に大笑いを咲かせているはずだった。
しかし、今日は違った。
机に伏せ、一言も発さず、偶に顔を上げたと思えば、びしょ濡れだった。
唇や眼差しの輪郭も崩れ、ガラス棒で攪拌すれば、晴天に流れそうだった。
人は涙だけで、こんなにも濡れるのだろうか?!
きっと、他に何か要因があるのだろう、と普通の人は思うだろう。
しかし僕は、その黒々とした瞳を見て、理由が分かった。
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