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「嗚呼、こいつも空っ方なんだ。空っ方の癖して涙が収まらないんだ。入れ物のない体なんだ」
僕の隣の席は、ジグソー・Pだ。人数の関係上、ここだけ男子のペアなのだ。
机の上には花瓶があり、やはり濡れていた。活き活きとした、青い花弁。触れてみたが、名前は知らなかった。
「ジグソー・Pは、死んだよ。俺の傍で」
シルエット・Qは僕の横にいつの間にか立ち、強引に囁いた。
「皆、そのことは既に知っている。だからアンタの席まで来たんだ」
彼の顔はもう、とっくに水彩に溶かされ、表情は伺えなかった。顔面に渦巻く涙の凝集は、"悲しい"なんて、初等の語彙しか思い出させてくれなかった。
それが非常に遣る瀬なかった。
花瓶からは、海の香がした。
分かったのは、夏がもう、引き潮になって征く、と云うことだった。
「花屋に、行かないか?」
暑すぎて死んでいる、蝉や女子や野良猫を避け、僕は校門に寄り掛かっているシルエット・Qを誘った。
「ジクソー・Pへ手向けたくって。海百合、なんてのは、名前も相まって良さ気だとおもったんだけど、どうやら花じゃないらしいんだ、海百合は。だから誘った」
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