序章

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序章

 遥か悠久の時を経ても、薄墨を塗ったような雲が湧けば雨が降る。それは、人の魂とて同じこと。  大地にこぼれ落ちる雨もあれば山に川に、海に落ちる雨粒もある。淀みへ落ち汚染されるもの、淀みに流され穢れるもの。瞬く間に屋根の上で蒸発する雨粒もあるはずだ。やがて、ほとんどの雨粒が気体化し、天に昇りて再び地上に落ちてくる。  輪廻転生のごとく、どんな雨粒も生き物の魂とよく似ている。運命を(ひら)けず、事件や事故で命を落とすもの、病で亡くなるもの、自ら選んでこの世を去るもの、実に様々だ。勿論、天命をまっとうする者もいるだろう。  だが、まっとうしたからといって、何があるのか?   水が大地に浸透し、幾層もの土で()されれば、不純物が限りなく(ゼロ)に近くなる。  あたかも、浄化された魂のように…
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