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まるで夢のような世界だ。が、残念なことに、このようなユートピアでも罪を犯す者は少なからず存在する。
レイヤが訪れた刑務所は、比較的、軽犯罪者が多かった為、雑居房と独房は設備が整っていた。中は、ワンルームマンションのような内装。コンクリートの壁や鉄格子はない。おまけに、剥き出しの便器も見当たらなかった。あるのは、壁一面のガラスだった。何があっても割れないように特殊な加工を施しているらしい。
看守のアビゲイルが、目的の部屋の前に来ると囚人に話かけた。分厚いガラス越しだがテレパシーを受け取れるようだ、
『ムーチョ博士、レイヤ姫が直々に面会に来てくれましたぞ』
『断ってくれ』
間髪いれずに、あっさりと返答が返ってきた。ベサメムーチョ博士は後ろを向きながら足の爪を切っていた。しつこくアビゲイルが説得にはいる。
『博士、わざわざレイヤ姫が博士に会いに来てくれたのですぞ』
『何度も言わすな、ボケが』
『………』
予想通りと言わんばかりに困り顔を見せたアビゲイルがレイヤに視線を落とす。次いで、『ほらね』と、テレパシーで伝えてくる。
さすがのレイヤもこうなることを予測していた。それゆえに、昨日から策を考えてきていた。突然、レイヤが前に出てガラス越しにテレパシーを用いた。
『おはようございます、ベサメムーチョ博士。今日は折り入って頼みたいことがありますので、地上で人気のある日本のアニメ本と、かなりハードなBL小説を持参してまいりました』
その瞬間、ベサメムーチョ博士の耳がピクッと動き、爪を切っていた手もピタッと止まった。
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