よんどころない事情

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 ゆっくりと後ろを振り返るベサメムーチョ。視線をすぅーと流し、レイヤ姫を見据えた。テレパシーを用いて何も話さないどころか、粛として声もない。  ベサメムーチョ博士は華奢な男性だった。仕草や喋り方などは、とってもオカマチック。それに身体の大きさに似合わず顔が大きかった。髪の毛は科学者らしいモジャモジャの白髪頭。  まもなくして、ベサメムーチョが、「オホンッ」と、咳払いをしてからテレパシーを用いて口火を切った。 『まあ、わざわざ姫が手土産を持って来てくれたのですから、多少なりとも耳を傾けるのは淑女のたしなみ。──いいでしょう』  そう言って、おもむろに立ち上がりガラス壁に近づいた。が、その言葉に疑問を抱いた看守のアビゲイルがボソッとつぶやく。 『淑女って、ただのオッサンやろ』  それを聞き逃さなかったベサメムーチョがアビゲイルに睨みをきかす。 『アビゲイルさん、今なにか、言いましたか?』 『あっ、いえ、別に…』 『では、面会を受け入れる前に、まずは…』  そうベサメムーチョが言うと、レイヤが手にしている布袋に目を向けた。その視線を察したレイヤが、慌てて本を取り出そうとする。 『あっ、一度、本をあらためます?』 『いや、そういうつもりではかなったのですが、姫がそこまで言うなら、少し目を通してみましょう』 『誰も、言ってないっつーの』  またしてもアビゲイルが弱い念でツッコんだ。と、ベサメムーチョはアビゲイルを一瞥してから、レイヤが布袋から取り出したアニメ本のタイトルを凝視する。 『ふむふむ、破滅の刃と、ポンズラ日誌か。なるほど──それでレイヤ姫、わたくしに話とは?』 『ちょっと、大事なことですので、2人っきりでお話したいのですが…』 『ふむ、では、アビゲイルさん、一時(ひととき)、電波の装置を解除してもらえますかしら?』  普段は、電波やテレパシーが筒抜けのガラス壁だが、面会の時だけは装置を働かせる決まりになっている。この装置を働かせることによって2人っきりだけの会話も可能のようだ。もっとも、重犯罪者が収監されている刑務所には、このような設備は整っていない。  従って、相手を選びテレパシーで会話すれば、第三者には聞こえないようなシステムだ。
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