解かれたホログラム

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「本当に今までの我々の常識がすべてくつがえっていきますな」  宗教学者の小野寺がつぶやいた。 「そうでしょうね。あなた方が知る地球史は、誰かがあなた達の目を逸らそうと意図的に改竄してますもんね」  顎に指をあてたベサメムーチョが小野寺に目を向けながら悩ましげにつぶやいた。 「どうやら、そのようですな」 「ところで、この地球上に現れた物理学者のなかで、一番優秀だったのは誰だかわかりますか?」  今度は、ベサメムーチョが皆に質問を投げかけた。 「それは、ニュートンかアインシュタインですかな?」  豊川マリアの大学で人類学の講師をしていた宇杉が言った。 「違うわ」 「では、シュレーディンガー?」 「それも、違うわね」 「ならば、スティーヴン・ホーキング博士ですか?」  お次は宇宙科学者の金子が言った。憂いのある顔は、まだショックからは立ち直れていないように見える。 「みんな立派な物理学者だけど、残念ながら彼らではないわ。──いいわ、教えてあげる。物理学者として一番優れていたのは、お釈迦さんよ」 「なんと、それはどういう意味ですかな?」 「今の地表の量子力学では、もう霊的なことを認めなければ、前に進めなくなってるんではなくて?」 「確かに、もうその域に達しています」  金子がふんふんと頷き、得心している。 「それに宇宙の心理を知らなければ、物理を語れないと、ようようわかってきたでしょ?」 「それは、もうその通りです」 「それを一番わかってたのが、約2500年前に地上に現れたお釈迦さんだったってこと。あなた方は、この宇宙を個体や物体でしか捉えない、もしくはそうとしか見えないわよね? まあ、3次元の世界では、見えるものしか見えないのは当たり前のことなんでしょうけど。でも、わたくし達から見る宇宙は、お釈迦さんが説いた曼陀羅図(まんだらず)のように見えるのよ」 「…なるほど、宗教から物理にたどり着くのか、物理から宗教にたどり着くのか……はっ、ははー、これはすごいですな!」  今度は宗教学者の小野寺が驚嘆の声をあげた。どこか、思う節があるようだ。  その小野寺が少し落ち着いた頃を見計らいベサメムーチョが一呼吸おいてから再び話しだす。 「様々な学びの分野があるけれど、スタートする裾野(すその)が違うだけで目指す山頂はみんな同じなのよ」
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