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だから何回か繰り返された後、俺はやっと時計を見ることにした。その日は十一時三十五分にお湯をいれた。食べ始めるには、三十八分に蓋を取ればいい。
カップ麺をテーブルに置いて、蓋の上に箸をのっけて。欠伸をして、もう一度時計を見た時だった。
「は!?」
時計がおかしかった。
お湯を入れたのは十一時三十五分のはずなのに、もう十二時半なんだ。一時間近くが経過しちまってる。あわてて蓋を開けて見た。やっぱり麺がのびちまってる。
――ど、ど、どういうことだ?
信じられなかったが、どうやら俺はカップ麺にお湯を入れたところで意識を飛ばし、一時間後まで目覚めなかったということらしい。しかし、本当に眠ったような感覚なんかなかったんだ。ちょっと眠いな、と思った程度で一時間も完全に意識を失ってしまうなんて、そんなことあるんだろうか。それもいつも、昼飯を食べる時間に、だ。
同時にこうも思った。本当に俺は、一時間眠ってるんだろうか?実はその間に、俺も知らない謎の行動をとっているんじゃないだろうか?ってな。
で、どうしたと思う?
俺は観察してみることにしたんだ。自分の行動を。一時間の間、何をしてるのかっていうことを。
事件はいつも、俺がカップ麺食べる時に起きるわけだ。ならば、その直前の部屋の様子をよく観察しておけばいい。目覚めた時に部屋の様子がそれまでと異なっていれば、俺はその間に何か行動を起こしたってことになるだろ?
最初に気付いたのは、椅子が少し引かれてたってこと。どうやら俺は本当に気絶しているのではなく、椅子から一度立ち上がって戻ってきたってことらしい。
さらに、カップ麺の蓋を開ける前に己の手を観察した。少し濡れているし、石鹸の臭いがする。手を洗ったらしい。これもまったく覚えてないが。
それから、玄関だ。俺はいつも自分が履く靴を一足だけタタキに出しっぱなしにしてる。それから、自分が自宅にいる時は鍵だけじゃなくチェーンもかけるようにしているんだ。だからカップ麺を食べる前に、靴をしまってチェーンをかけておいたわけ。すると何が起きたと思う?
はっとして起きた後に確認したら、靴が出てんの。
それも、まるで外から帰ってきたみたいに反対向きに置かれてる。でもってチェーンロック、確かにかけておいたはずなのに外れてるんだ。
――俺、意識がない間に、どこかに出かけて戻ってきてるのか?一時間ありゃ、近所のコンビニ行って戻ってくるくらいは余裕でできるだろうが……。
な?
この時点で充分不気味だろ?
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