ひきだしのおくに。

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ひきだしのおくに。

 あんた、ホラー作家なんだろ?  だったら、こういうことに関してちょっとは知識があるかもだよな?だって、実話の怖いはなしとか結構集めて知ってるんだろうし。正直、俺怖くってこの件、誰にも話せてねえんだよ。  悪いことした記憶なんかないから警察にも頼れないし、霊能力者とか呼んで怖いこと言われても嫌だし。  とりあえずさ、聞くだけ聞いてみてくれよ。それであんたがどうしてもって言うならまあ、別のところに相談することも考えるからさ。  事の発端は、一年くらい前のことだ。  何年か前から俺は、在宅で仕事をするようになってた。学生の頃は結構ヤンキーじみたことして、まあ、あっちこっちで暴れたり補導されたりなんてこともあった俺だが、今じゃいっぱしのWEBデザイナーってやつでよ。基本的に、家でずーっとパソコンとにらめっこしてるような仕事なわけだ。  時々仕事先の人と電話したり、オンライン会議したりってことはある。  でも入る予定なんてそんなもん。それこそ、出かけるのは食品の買い出しとか、気晴らしの散歩とかその程度のもんだ。  時間の都合がつきやすく、自分のペースでやれる仕事ってのは俺の性にあってたっていうか。昔からデザインとかパソコンとかは好きだったからなあ。会社に行くだけで疲れるし、人に監視されながら作業するのもまた疲れるし、そういう俺にとっては一番ぴったりな仕事だったんじゃねえかと思うよ。  だからその頃も、いつも通り家で仕事をしてたんだ。  納期は気にしなくちゃいけねえが、時々好きなように休憩したり、昼寝したりしながら作業できるのは本当に気楽だ。  あれは多分、平日だったな。アパートの近くの公園が静かだったような気がする。正確な曜日までは覚えてねえが。  で、昼になって腹が減ってきたんで、カップ麺を食べることにした。カップ焼きそばじゃなくて、あったかい塩ラーメンを選んだんじゃなかっただろうか。ていうことは、多分あんまり寒い日じゃなかったんだろうな。  カップ麺にお湯を入れて、出来上がるまで待ってた。ああ、そこまでは覚えてるんだ。  最初におかしいと思ったのは、そのカップ麺だった。 「ん?」  ちょっとだけ眠くなったな、と思ったような気がするがそれだけだ。いつも俺はカップ麺はタイマーかけて作らねえ。そろそろいいかな、でいつも適当に蓋を開けちまう。  ぺりっと剥がして食べようとしたその時だ。 ――あれ?なんか、麺のびてる?  そう、本当に。  本当に最初の違和感ってのは、それだけだったんだ。
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