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◇ ◇ ◇
「茉美ちゃん、その制服もう高校生かあ!? そりゃあ俺が年取るはずだよな」
私が小学生だった五年前に就職して家を出て以来、久しぶりに顔を合わせたお兄ちゃん。
私が部活から帰って家に入ろうとしたところで、お隣から出て来たんだ。知らない人と二人で。
ねえ、崇史くん。その人だれ?
私の視線に気づいたのか、彼が紹介してくれた。
「えーと、俺今年の秋に結婚すんの。彼女と」
少し照れくさそうに、同僚なんだよ、と私よりずっと小柄なその女の人を。
「はじめまして。実家のお隣に可愛い女の子が住んでるって聞いてました。本当に可愛いわ」
笑顔がキレイなお姉さんを、私はまっすぐ見られなかった。
崇史くん。この人、本当に美人でオシャレで優しそうだけど崇史くんの肩まで届いてないよ。
ヒール履いてるのにスニーカーの私より低いじゃない。
……私ならちょうどなのに。どうして?
大昔のあんな無意味な約束に縋ってる私は、背は伸びてもまだまだ子どもなんだ。
「あ、そうなんだ! おめでとう、崇史くん」
どうにかそれだけ口にする。
声は震えなかったわ。笑顔も作れてる。大丈夫、たぶん。
「じゃあな、茉美ちゃん。俺こっちに勤務になることはないと思うから、もう会う機会もそうはないだろうけど。だから今挨拶できて良かったよ」
明るく片手を上げる崇史くんと、微笑んで会釈してくれるお姉さん。
これから新幹線で帰る、という二人の後ろ姿を見送ったあとも、私はマンションの廊下に立ち尽くしたまま動けなかった。
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