触れれば溶けると知っていたなら

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 火照る肌を夜風が掠め、少しずつ気分が落ち着いてくる。  それでいて、伸びてきた細い指が唇に触れたときの感触は、少しも消えてくれない。  細い指も手首も、その気になれば簡単に掴めた。  けれどためらった。触れればその瞬間、溶けてはいけないものが溶ける、そんな気がしたからかもしれない。  手を伸ばすよりも早く、逃げるように背を向けて走り出してしまった君を――だんだん小さくなっていくその背中を、ただ呆然と見つめる。  君は、まるで星空でも見上げるように僕を見ていた。  隔てるものなんて、僕らの間にはなにひとつなかったのに。 〈了〉
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