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 この一画は、新鮮な食材を商う露天が軒を連ね、庶民の台所のような賑やかな雰囲気だ。  マヒワとバンは荷を解くと、さっそく宿屋の主人に稽古仕合の相談を持ちかけた。 「――ここじゃあ、城門が近いのでその警備につく役人さんがたくさん住んでましてね。それで、棒術が盛んなんです」 「その一派に紹介していただくことはできませんか?」 「いいですよ。ただ、ここの棒術は千刻流(せんごくりゅう)なんですけれど、そこの達人さんはかなり風来坊? というか、変わり者でしてね。強いんだけれど、ひとところには落ち着かない方でして、いま、ここにはいらっしゃらない可能性が高いですよ」  と言いながらも、ひとのよい宿屋の主人は、マヒワのために自ら棒術家のところにいって、話をつけてくれた。  翌日――。  昼前になって、千刻流棒術のところから師範代が訪ねてきた。  やはり、達人と言われている棒術使いは、ひと月ほど前に行き先も告げずに出て行ったらしく、仕合はやらないが、門弟たちの稽古を見るだけなら構わないという。  マヒワは師範代の案内で修練場を訪問することにした。  バンはいつものとおり、「街の情報を集めてきやす」と言って、先に出て行った。  マヒワは、宿屋から通りに出ると、師範代と並んで西門のほうへ向かう。 「師範代にご案内いただけるなんて光栄です。宿のかたから達人さんがいらっしゃると伺ったのですけれど、そのかたは師範なのですか?」  道みち、マヒワは師範代に素朴な疑問を投げかけた。  ――やっぱり、達人さんと仕合をしたい。  という思いをマヒワは諦めきれずにいた。
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