4/23
前へ
/220ページ
次へ
「いえ、師範とは違います。でも、師範よりも強い、とみんなは思っていますね」 「それでは師範の面子がいかがなものかと?」 「いえね。技が巧みで、仕合に強いだけで、流派の組織運営という面ではからっきし才能が無いというか、みんながあきれるほど身勝手な振る舞いばかりするもんで……」 「つまり、人望が無い、ということですか? いや、失言です。失礼しました」  さすがに言い過ぎだと思って詫びるマヒワに、師範代は、 「いえいえ、そのとおりです。みんなあきれているんです」  と手を振りながら、マヒワの発言を肯定した。 「そんな勝手ばかりしていながら、よく破門になりませんね」 「全く知らない武術や流派が相手でも、ためらわずに仕合できる者など、あいつのほかにはおりませんので、みんなが存在を許している、というところです」 「散々な言われようですね」  師範代が笑って言うものだから、マヒワも軽く調子を合わせる。 「でもね、教わった以上のことができるという点では、あいつは天才なんですよ。規格に収まらないヤツっているでしょ。うちではあいつがそうなんです」 「たとえば、どんな?」 「技の型をひととおり教えますでしょ。すると、すぐに実践で使えるように型を崩して、新しい動きを作り出したりするんです」 「型を教わって、それがすぐにできるなら、本当にすごいですね!」  武術における型は、流儀にあったからだづくりのために、わざと動き難くできている。手を上げる動作でも、日常生活で手を上げるのとは全く違う身体の動きを要求されるのだ。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加