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 いいかえれば、型の動作がやりにくいのは、日常生活からかけ離れた、技に要求される動作をしなければならないからで、型の動作を滑らかにできるようにするのが鍛錬である、といえる。  だから、型を習っただけで、すぐにできることはまずあり得ない。  何年も修行を重ねて初めて、その型の求める動きができるようになるものなのだ。  師範代のいうように、型を知ってすぐに応用できるならば、その型に要求される動作ができるだけの身体能力がすでに備わっている『天才』だといえる。  まさに達人だ――、とマヒワには納得できた。 「しかし、剣聖さまはお若いですね」  と師範代がマヒワのほうを改めて眺め、思ったことを口にする。 「剣聖、と呼ぶのはおやめください。確かに、あたしは御光流で『百人抜き』を達成しましたけど、極めたという実感なんて全くありません。まだまだ修行中です」 「でも、百人抜きをやり遂げた方がみんな剣聖になれるわけではない、と聞きましたが」 「ええ、そうなんです。お詳しいですね」 「いえ、わたしの知っている人から聞いたんですがね。同じ剣聖でも、自分でそう名乗る場合もあれば、人が認めてそのように呼ぶ場合もあるとか。マヒワ様は、後者ですよね」 「おはずかしながら、そのようです――」 「百人抜きっていうのは、本当に大変なんでしょ。手の内を知った同門から、同格かそれ以上の猛者も打ちかかってくるわけだし、そんな人たち全員を倒さないといけないわけですから、想像するだけで、しんどい試練ですな」
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