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「そうですね。あたしの入門するきっかけが、兄弟子の百人抜きでした。二日間ほどぶっとおしで行われるんですが、本当にやりきるなんてすごい、と思いましたよ。百人抜きを成し遂げるほど、優れた技量をもっているのに、その兄弟子は剣聖とは呼ばれませんでした」  といってマヒワは宙を睨む――。 「……どうされました?」  何かを思い出そうとするマヒワの姿を見て、師範代が聞いた。 「あのですね、師範代。驚かないでください!」 「な、なんですか?」  マヒワは、驚くなといいながら、驚かない訳がないような話ぶりをした。 「あたし、いま、思い当たったことがあります!」 「そ、それは?」 「剣聖になるには、百人を相手にすることが絶対的な条件でないんです!」 「……?」  師範代は口を半開きにして、「えーっと……」とかつぶやいている。  師範代の微妙な反応を意に介さず、マヒワは少し興奮した声で、「あたしは、百人も相手にしていないんです!」と続けたものだから、師範代はますます反応に困った。 「あわわ、……すみません。混乱させたみたいですね」  あわてて、マヒワは、両手をひらひらさせる。 「百人に達するまでに、あたしの同門の皆さんが『剣聖だ』と宣言されたので、そこであたしの百人抜きは終わってしまったんです」 「それじゃ、ますます、マヒワ様は、正真正銘の『剣聖さま』ということじゃないですか?」 「あはは、どうも、そうなってしまいますね……」  と、マヒワがはにかんだ。 「……か、かわいい」  そうつぶやいた師範代の声は、マヒワに届いていない。
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