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「――それでですね。ひとから剣聖と言われても、あたし自身はまったく修行の足りてない気がして、それで廻国修行にでることにしたんです!」 「そうでしょうとも……」  マヒワを愛でる師範代の相づちは、もはや上の空である。 「でも、行く先々で、剣聖さまとかいって祭り上げられることはあっても。肝心の修業につながるようなことは全くなかったんです!」 「わかります。……ええ、よくわかりますよ」 「それで、剣術の他の流派や、ほかの武術なら、もっと興味を持って仕合をしてくださるだろうと期待したのですが、これも全くダメなんです!」  次第に盛り上がるマヒワ。 「……それは、それは、たいへんお困りでしょう」  と調子のよい師範代の目尻は下がりっぱなしだ。 「そうですよ! あたし、困ってるんです!」  そこでマヒワは一息入れると、ぐっと目にちからを込めて、 「師範代、あたしと――してくださいッ!」  と、顔を近づけた。  すると――、 「よろこんで!」  たいへんおめでたい返事が師範代から返ってきたではないか。 「やったー! 師範代! 仕合をお引き受けくださって、ありがとうございます!」  マヒワは、念願叶ったうれしさのあまり、師範代の手をとり、ぶんぶん振った。 「あ、いや、その……、聞き違えました、かな? あ、あはは……。でも、やったぁー」  何をどのように聞き違えたのか不明だが、こうして師範代は仕合を拒んでいた師範を説得する羽目になった。
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