12/23
前へ
/220ページ
次へ
「いやぁ、あれは不思議な剣でしたな。剣が不思議というよりも、その剣を(ふる)うマガン元帥が何とも神秘的でしたなぁ。元帥が馬上でその剣を揮うと、みんなが導かれるように動くのです。まさに軍神。わしも知らぬうちに陶酔したようになって、敵に突っ込んでいきました――」  昔話を語りながら、ガラムはマヒワを駅舎の外に誘った。  外に出ると、ガラムは後ろから付いてきていた師範代になにやら耳打ちをした。  師範代はひとつ頷くと、急いで修練場の方に駆けていった。  そんなやりとりをマヒワは歩きながら目で追っていたが、ガラムのつぎの話がマヒワの足を止めた。 「そういえば、あの剣は、剣術で最高位の者が持つものらしくて、元帥が引退されたときに王都守護庁の長官に託されましてな。つぎの時代はお前じゃ、と告げられておりました。元帥の引退式には、わしも呼ばれておったので、長官に剣を授けられる場面に立ち会うことができて、まことに光栄なことでした」 「師範は――、その長官をご存じでしたのですか?」 「そう。はじめはどこかで見た顔じゃ、と思っておりましたが、ある式典で本人さんと話す機会がありましてな。そのとき思い出しました。なんのことはない、岩塩戦争のときに元帥の傍でめっぽう強かった、あの剣士さんでしたわい」  といったところで、ガラムは歩みを止め、何かを考える様子をみせた。 「あれ? マヒワ殿はなぜ紅い宝石の剣のことを知っていなさる? マガン元帥のお手元には、もはや、あの剣はないはず。ならば、マヒワ殿が知っておられるはずはない、違いますかな?」
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加