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 弟子たちが槍を振り降ろしたときには、マヒワの木剣が一番右端の弟子の首に突きつけられていた。  この展開に驚いたのは木剣を首に突きつけられた当の本人だけで、ほかの弟子たちには目の前に居たマヒワが消えたようにしか見えなかった。 「むぅ――さすがですな」  と唸ったのは、ガラムだ。 「実は、剣術家にこの仕合を申し込むと、たいてい断られる。受けて立とう、という勇ましい剣術家もときにはおりましたが、いままで勝った者は皆無です」 「なんか、そんな感じしてました。剣術家にとって条件がひどすぎます」 「この前、といっても十年ほど前になりますが、同じように廻国修業をされていた剣聖さまは、あなたとは違って、大勢のお弟子さんを連れておられましてな……」  ――その剣聖さまのことは、よぉーく、存じております。  とマヒワは心の中で応じた。 「ひょっとして、同じように、槍との仕合を勧められたのですか?」 「そのとおり。しかし、弟子たちに後学のために見せてやってほしい、などといって、本人はちっとも剣を持ちませんでした」 「分が悪いですから、普通はそうでしょう」 「それで剣術家相手には、もう仕合をやらないことにしたんです。それにしても、さすが元帥さまのところの剣聖さまは、同じ剣聖でも格が違いますなぁ」  ガラムは詫びれもせずに、本気で感心している様子を見せる。 「……でも、実際の隊列はもっと横に広がっていますよ」  といったのは師範代だ。  ガラムは、「――すみませんな」という視線をマヒワによこす。
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