20/23
前へ
/220ページ
次へ
 弟子たちを見ると、表情は様々だが、総じて「またこの人は……」という印象だ。  ――いるんだよね。言わなくてもよいことを、最悪の間で言っちゃうひと。  師範代に悪気は無いとわかっているものの、仕合を受ける者として、このままでは終われない。 「そうですか。いいですよ。もう一度やりましょう!」  と気にしていない風を装いながら、マヒワは師範代を少々いじることにした。 「ささ、師範代もご一緒に!」  といって有無を言わさず師範代を列に並ばせた。  師範代の位置は、先ほどの反対側、いちばん左端だ。  剣術家にとっての救いは、槍術は長い武器である槍を操作するために、お互いがかなり間隔を空けて横に並んでいるところにある。  つまり、懐深くに踏み込むことができれば、隙間に入って、相手と並ぶことができるということだ。  先ほどと同じように両者が構えあう。  マヒワは正面に木剣を構えて、集中力を高めていく。  今度は、相手の攻撃を誘い出すようにマヒワが先に動いた。  マヒワに先手をとられたので、槍は突きで応えた。  槍先はマヒワのいた場所に一斉に繰り出されたが、そのときマヒワの姿はそこになかった。  マヒワはすでに師範代の隣に並んでいたのだ。  手にした木剣を、槍を突き出そうとしている師範代の両腕の間に下から差し 込み、師範代の右肩を斜め上に突きあげるように押し出した。  師範代は両肘の関節を木剣に極められて、からだが宙に浮いた。  投げ出された師範代は、奇声を上げて空中で一回転し、弟子たちが突き出した槍の上に背中から落ちた。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加